■ お茶室で聴く 笙と波紋音の響き〜神と人と音楽と〜2011.7.31

昨日(2011年7月30日)朝日カルチャーセンター横浜で笙と波紋音の講座があり、雨のなか、大変熱心な受講生の方々にいらしていただきました。

講座タイトルは「お茶室で聴く 笙と波紋音の響き〜神と人と音楽と〜」

今回は音楽が神と近かった古代の音について、という私の好きなテーマでした。

当日できるだけお話に集中していただけるよう、講座メモを作りましたのでここに掲載させていただきます。

受講してくださった皆様、有難うございました。

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古来、音楽は舞踏・演劇などの芸能とともに、宗教や悪魔祓い、雨乞いなどの儀式と密接な関係があった。特に音楽はカミ(神霊・精霊)との交流のためにかかせない要素でもあり、人間が生きる上で必要不可欠のものだった。また薬草の知識などを持ったシャーマンが病気治療するのに際しても音は重要な役目をもっていた。医学の発達した現代でも、音楽療法という言葉があるように、音楽は大事な役目を果たしていると思う。
また、楽器というものも、2万年前クロマニョン人の遺蹟からマンモスの骨が打楽器として発見されている(注1)ことからわかるように、本来身近なものから音を出していた(注2)のであり、現在の形になるのには、相当の時間がかかっているのである。もちろん、そこには、現代のような音階もない。
私が演奏している創作楽器・波紋音(はもん)は、鉄でできたスリットドラム(注3)で、特定の音階はなく、整音もされていないのでノイズ音(注4)も多い。現代の楽器だが、時空を超えたような不思議な存在感の「波紋音」を通して、古代の楽器や、音の原点について皆さんと思いをめぐらせることができれば・・と思う。

                            打楽器奏者・永田砂知子 


           
*注1 ウクライナ、メジン遺跡・・・ウクライナのメジン遺跡では、マンモスの骨にキザミ跡のある骨が発見された。これらのものが楽器と判断されるまで、ウクライナ科学アカデミー、ソ連科学アカデミーなどの多くの研究者たちによって、多角的に検証されたという。ジグザグ状、角状、縞状の文様が赤色顔料でかかれ、文様のある特定のところに頻繁に力を入れた、打撃跡、手で握って磨かれた艶の跡、などがあり、これによって打楽器だという結論にいたったそうだ。
この検証には、考古学はもちろん、痕跡学、鑑識学、法医学、など多くの分野からの検証があったという。

*注2  身近なモノから楽器へ
<水音> 
もしも楽器が禁じられたら・・・ザイールのマングベツ部族の話
この部族では、楽器演奏できるのは男性だけ、というきまりなので、 禁じられた女性が、洗濯をするときなどに、川の水面を太鼓のように叩いて遊ぶそうです。 
この音は「PULSE of THE PLANET」というタイトルのCDで聞くことができます。実際にCDでこの音を聞きましたが、手の形を変えることによって、水音というより太鼓のような音に聞こえました。さっそくお風呂で実験してみましたが、手の形で確かにいろいろな音が出ました。メラネシアのソロモン諸島でも同じような風習があるようです。

<スティールパン>
もしも楽器を禁じられたら・・・カリブ海にあるトリニダード・トバゴ島の話
 石油が採れる、というので、イギリス人がアフリカから黒人奴隷を引き連れてやってきたの  
ですが、黒人たちが太鼓で内緒話をしているらしい、という不信感を持ったので、太鼓を禁じてしまう。禁じられたので、今後は竹を太鼓のかわりにするが、竹も武器になる、と言って禁じられてしまう。仕方ないので、転がっているゴミ箱や、ドラム缶を使って、色々やっているうちに、ドラム缶から音程を出すことを発見し、きれいな音のスティール・パン(スティール・ドラムとも言う)を作った、という話です。 アフリカの人は、お金をかけずに、身近に転がっている素材で、美しい音の楽器を作る天才です。彼らが作った楽器を見ると、音だけでなくデザインも素晴らしいです。バラフォン(アフリカの木琴)などはクギを一切つかわず、ひもをうまく使って楽器を組み立てています。そういう技も関心してしまうところです。

 このほかに、身近なものから楽器に発展していったものは、パーカッションのなかには
いっぱいあります。
<茶碗>・・・インドでは、ジャルタラングと言う名前で茶碗が楽器として使われている。茶碗の中に水を入れ、調律することで微妙な音程のインド音階にもあわせられると言う。
<スプーン>・・・スプーンも楽器として使われていて、現在楽器屋さんで、スプーンというそのままの名前で売られている。木製や金属製のもの、2本がセットになっているものなどがある。
<空き箱>・・カホンという楽器となって、いまバンドなどで広く人気の楽器です。

*注3 <スリットドラム>・・・中を空洞にした丸太を捧で叩いて音を出し、儀式や祭礼に使われた。人間や動物の形に形づくられていることも多い。木魚もスリットドラムの仲間。分布地域も広く、東アジア 東南アジア、中西部アフリカ メラネシア ポリネシタ メキシコなど広範囲に及んでいる。インドネシアにいくと木ではなく竹で作られ、通信用に使われたという。

*注4 <ノイズ音>・・・ノイズ=雑音と書くと、余計な音、排除しなければいけない音のイメージがあるが、アフリカには、わざわざノイズが出るようなしかけの楽器が非常に多い。親指ピアノ、バラフォン(木琴)にはジージーと鳴るためのしかけが仕込んである。このジージー音は、雑音ではなく、精霊や先祖の霊とつながるための大事な音ということらしい。日本の楽器でも三味線、琵琶、にはさわりというノイズ音が出る。尺八のむら息もノイズといえるだろう。

時代をいっきに飛んで現代では、ノイズ音だけで構成されるノイズミュージックという分野もある。メロディーもハーモニーもなく、ただひたすらジージー、ピーピーと鳴る音楽は前衛と言われ、あまり一般的な音楽ではないが、鈴虫の音を風流といって好む日本人の耳には案外近い世界なのかもしれない、と思ったりする。ちなみに西洋人の耳には虫の音は風流などではなく、ノイズとして処理されるらしい。


                 参考文献・郡司すみ「世界楽器入門」朝日新聞社
                  関根秀樹 新版「民族楽器をつくる」創和出版

                         


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