■ 06/1/17 角 偉三郎さんの想い出2006.1.17

今日、漆作家の角偉三郎さんの個展に板橋の瑞玉までいってきた。といっても角さんは昨年すでになくなられたのだが・・・。

角さんとは、そんなに親しいわけではない、が、能登半島の門前にあるアトリエでコンサートさせていただいたことがある。

ある日、能登半島・七尾でコンサートしたあとに、主催のかたに能登を案内していただいているうち角さんのアトリエの前を通りかかったことがある。とても素敵なアトリエで、いつかこんなところで、ちょっとでも音がだせたらいいな〜とそのとき漠然とおもったのである。

それから、ところ変わって小田原の「うつわ菜の花」で、角さんの個展があり、うかがった。そのとき、角さんに直談判で、アトリエでコンサートしたいのですが・・・と思い切っていうと「うん。いいよ」というお返事であった。オープニングで多少のお酒がはいっていた、ということもあったとおもうが、あっけなくOKがでたので、少々びっくりした。

それからが大変。コンサートは私一人ではできない。特に角さんのアトリエでは大人が楽しむ会をしたかったので、音だけでなく、何か視覚的なものがほしかった。それで、それまでお付き合いのあった、野の花をいける杜達史さんをお願いした。
コンサートのあとは、おいしいおつまみとお酒がほしい。それら全部を協力してくださる地元のかたがたを、お願いしなければならない。これに関しては七尾の老舗醤油屋さん鳥居正子さんに大変お世話になった。

さて今度は楽器を運んでくれる人が必要だ。これも友人の友人で角さんのファンという北海道の若い木工作家が引き受けてくれた。ご存知のかたも多いとおもうが、東京から能登半島へいく場合、長野県から富山県へいく途中がとても大変らしい。時期的にも3月という雪のふる大変な時に企画してしまった。車が運転できない私だから、こんな無謀な企画をしてしまったようで、申し訳なかった、と反省している。ただし運転してくれた彼は、とても優秀で、さすが北海道の人らしい素晴らしい運転だったことをここでいっておこう。

さてと、準備がととのって、楽器もつんで、えんえん8時間くらいかけて、現場にいった。

現場をじっとみると、いい色の「こね鉢」があるではないか。
長い年月をかけて使った道具だけがもつ、とてつもない存在感がした。
これに負けない楽器は?ということで結局たくさん持っていった楽器のうち波紋音だけが残った。ここで、このコラムの読者は何か変だな?とおもわれたかもしれない。そう私は音楽家なのにビジュアルが大事というこまった性格なのである。

さて演奏が始まると、窓の外は雪景色である。
なんとなく雪をかんじながら演奏していると、そこへどこからともなくいい風が・・・・
ふと演奏する手を休め、風を感じてとてもいい気持ちに・・・

そして中央にでんと構えた、水の入ったこね鉢に手を入れ、水の流れをつくり、そこへ椿の花びらをポンと入れてもらい、しばし花びらの舞う姿をみてもらい・・・
そして、玄関のほうへ視線をむけてもらうために、音を鳴らしながら歩いていってそのまま外へ・・・花の杜さんがそのあと、あざやかな椿の花を土に散華してくれた。

つげ義春の「赤い花」ではないがさぞ美しい赤がまき散ったであろう、その瞬間がみれなかったのが残念である。

こうして、山奥の角さんのアトリエでのパフォーマンスは終わった。
時間にしたらあっという間の短い時間だったとおもうが、私の中で、あの雪景色・風・
椿の赤・冷気など、生涯わすれられない思い出である。

角さん、もう一度お会いして、お礼がいいたかったです。
あまりにも早くなくなられて、残念です。

きょうはお葬式に参列できなかった私の個人的な追悼の日となりました。

合掌。

2006/1/17 永田砂知子


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